本日このような記事が少し話題になっていた。
Steve Jobs 氏、Android OS を「叩き潰す」と誓っていた
多少強引な面はあるかもしれないが、iPhoneが無ければ今のAndroidは無かったと思うので、AndroidがiOSをパクったのは明らかだと僕は思っている。iPhoneの技術はハードウェアよりもソフトウェアによって実現している部分が多いと思うので、筐体は全く別物に見えても中身は殆ど同じという事ができてしまう。
そういう意味で製品としての見た目が違うのに中身をパクってると言われても、ほとんどの人にはピンとこないだろうと思う。これが現在の技術の難しいところだ。スティーブ・ジョブズの怒りももっともだが、これが中々理解されないジレンマもあったんじゃないかと思う。だからこそ、Appleではなくスティーブ・ジョブズ自身が「叩き潰す」なんて発言をすることにつながったのではなかろうか。Appleとサムスンの特許戦争が最近話題になっているが、これもその一環だったのかもしれない。
しかし、この特許というもの、言葉くらいは大人だったら大抵知っているだろうが、どういうものかを理解している人は案外少ないんじゃないかと思う。ほとんどの人にとっては「難しそう」、「一部の天才のアイデアを保護するもの」くらいの認識だろうし、この認識が現在のような技術的にできるなら何でもOK的な風潮(違法コピーとかはその典型)を生み出していると思う。
僕も少し前まではそんな認識だったが、東京で2年間携わった仕事というのがとある大企業の特許管理システムの開発で、その部門の人(多くの企業では知財部などと言われる)と会話したり、実際に知的財産管理技能士って資格も取得したので少しだけ詳しくなった。今日はちょっとだけ特許というか知的財産管理の裏側を書いてみようと思う。
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特許を始めとする知的財産権は日本だと主に以下に分類される。
・特許権
・実用新案権
・意匠権
・商標権
・著作権
多くの人にとって一番馴染みがあるのは著作権だろう。音楽とか文学というのはこれによって作者の権利が保護されている。意匠はデザイン、商標は企業のロゴを想像してくれたらいいかと思う。特許と実用新案は似たようなものだが、とりあえずは特許は高度なもの、実用新案は既存のものを組み合わせて生み出されたもの(=比較的簡易)と分類できるかと。
それで、Appleとかが最近サムスンとかを訴えているのは特許(=Patent)によるものだ。特許というものは有益な発明をしたもの(=発明者)に対して、その発明を一定期間独占的に使用する権利を国が与えるものだ。「国」がと書いたのは理由があって、日本で認められた特許はあくまでも日本でしか通用しないということだ。特許法というのは各国存在するが、その考え方は様々で全世界共通というものは現時点ではない。
なので、企業はある発明をもとに開発した製品をグローバルに展開しようと思った場合、その国毎に特許を出願する。願書はルールなどが決められているため、素人ではなかなかできない。また、出願には認められようが認められまいが数万円の手数料がかかるし、出願が認められても特許になるにはさらに金がかかる。そして、日本の場合20年間権利の維持が認められるが、これにも更新料のようなものがかかる。要するに特許を得るためには相当なお金と、特許に関する知識が求められる。
そういう事もあり企業に属する多くの発明者は、企業にその権利を「譲渡」し企業が出願人となることで特許出願をする。ちょっと調べてみたが、Appleでも同じようにしているようだ。
例えばこの発明もAppleが出願人になっている。特許というものは、独占的に使用する権利を得る代わりにその情報を公開する必要がある。この為、ネットで少し検索すれば情報自体は誰でも閲覧が可能だ。
なので、見る人が見れば容易にパクる事はできる。そして特許裁判というものは、この公開された技術を無断で使用している事が発覚した事をきっかけに、どこが権利を侵害しているかを焦点に話が進む。要するにパクるのはいとも簡単だが、見つけるのは非常に大変なのだ。制度は国によっても異なるため、特許を多く持つ企業は世界中の製品と特許に対して目を光らせて、類似技術が特許として認められそうなら異議申し立てをしなければいけないし、パクられたと思えば裁判を起こしたりしなければならない。特許を得たからといって安心してはいられないのだ。
今はIT技術が進歩し機密情報は一度漏れたら一瞬で世界中に広まるし、アイデアを得られればそれを流用した技術を開発するのは簡単になってしまった。それだけに、最初にそれを生み出した発明者の権利はより強固に守られる必要がある。Androidに対して激しい怒りを持っていたとされるスティーブ・ジョブズの発言は当然の事で、苦労して生み出した我が子を数年でパクられたら誰でも悲しいし怒るはずだ。
再発明された電話であるiPhoneは素晴らしいプロダクトで、この技術をきっかけに新たな製品が生まれること自体は悪いことではないと思う。事実、AndroidというiOSとは違った形の製品は、一定数以上の支持を受けてこれだけ広がったし、AndroidとiOSが切磋琢磨することでわずか数年で、携帯端末=スマートフォンというくらい普及した。
ただ、最初に生み出したAppleに対して認められた権利を使用するためのロイヤリティは最低限支払われるべきなはずで、そのようなクロスライセンス契約もなく、技術的に可能だからというだけで全く同じようなものをさも自分達が産み出したかのように振る舞うことには非常に疑問を感じる。
クリエイターには発明の対価が正しく与えられなければ、今後の情報技術の進歩が停滞してしまうんじゃないかと思う。苦労して作ったものがなんの許可もなく使われたら誰だって悲しいし怒るはずだ。場合によっては、もう新たなものを創造する事をやめてしまうかもしれない。それは特許ほど高度なものでなくても、自分のブログの文章でもプログラムでもイラストでも写真でも一緒だと思う。
長文になってしまったが、場末のサイトの文章をここまで読んでくださった方には、感謝すると同時に、少しだけ知的財産というものを考えるきっかけになってくれたらと思う。